仙人池から劒岳を見てみたいという憧れを叶えるために、日帰り弾丸登山に挑戦しました。時間さえあれば行ける場所ですが、日帰りとなると結構難しいです。


 天気予報を見て、これならいい写真が撮れると思い、馬場島を起点に深夜0時スタート。白萩川を沢登り、大窓を経て池平山のピークを踏んで、9時間の末ようやく仙人池へたどり着きました。八峰が水鏡に写っている姿を見たときは随分喜びました。

 劒岳の本峰も踏みたいので、長次郎谷を詰めてピークを踏みました(北方稜線ルートは自分のレベルで単独行は無理だと判断)。

 ダッシュで早月尾根を下り、もうヘトヘト、試練と憧れでした。

 このルートを強行するにあたり、沢登りや、懸垂下降、ルートファインディングなどの技術はまだまだ未熟ですが、Yasuhiro先生や大魔人さんにその技術を教わっていなければ、実行できない行程でルートすら思いつかなかったと思います。ありがとうございました。



<馬場島〜大窓>

 馬場島の駐車場は、車で埋まっており、路駐まで発生していました。やむなく少し下の駐車場に停めて仮眠をとりました。

 深夜0:00 こんな時間に行動するのはいいとは言えませんが、今回の行程は18時間を要すると想定しており、序盤からハイペースで行くしかありません。白萩川沿いの林道を15分ほど歩いて、最終堰堤で入渓しました。月明かりでうっすら明るい、ヘッドライトを頼りに沢を登ります。特に危険な箇所も無く、大窓出合に到着。ここで驚きました、雪景がもの凄いです。中仙人谷へ進みますが、ここからガレ場で谷も素直じゃなくてややこしいので、GPSでルートを確認しながら慎重に進みました。水が切れたところで登山靴に替えてカッパを着ました。大窓が見えて来ると、さらにルートは不明瞭で薮をかき分けて軌道修正するも朝露や昨晩の雨でカッパもびしょびしょ、いよいよ登山靴も水没してしまいました。寒い寒い。

 大窓到着、振り返れば夜景がなんとも素晴らしい、キラキラ光っていました。

<大窓〜池ノ平山・南峰>

 北方稜線は一般登山ルートではないので、登山道らしい道はなく、トレースがうっすらあるだけです。そのトレースを辿りながら、見失いながらも進むしかありません。気温もかなり低いようで濡れたウェアが非常に寒い。ガタガタ震えながらも歩いて燃焼するしか体温を保つ術はありませんでした。辛かったです。

 最初のピークP2561を踏む頃、日が昇り始め、赤ハゲ、白ハゲが朝日を受け止めていました。この静寂が大好きです。

 一方、自分が進む方向は激しい岩稜帯、緊張感が走ります。北鎌を行ったときは心強い大魔人さんが先行してくれたが、単独だと自分の判断が全てだからバックアップは無い。今回はロープも持参、覚えたばかりの懸垂下降の準備はある。無理は絶対しない、ダメなら戻るしかないが、己の力だけでなんとしてもやってみたい。

 地図にピークは示されていませんが、P2561と池ノ平山の間に小ポコがあって、ここが一番難儀しました。後から分かったことが、小ポコは左から巻くのが正解ですが、自分は登ってしまいました。登って気づいた事が、降りれない!それどころかピークが狭過ぎて立てず進退窮まります。反対側にはどう考えても降りれないので、戻るしかありませんが、登って来た通りに降りるのは不可能です。こういうのが一番怖いパターンです。なんとか足場を確保して、木を支点に5mほどですが懸垂下降して無事復帰できました。ルートファインディングのミスが招くリスクは無くしたいです。そんなこんなで時間を大幅ロスしました。

 池ノ平山へはさほど苦労は無く行けましたが、南峰へはトレースは当てにならないです。ハイマツの激しい藪漕ぎ、一度足を取られると起き上がれません。ハイマツの上でジタバタ。もうウンザリ。

 地図上では僅かな距離ですが、大窓から南峰へたどり着くまでにかなりの時間を使ってしまいました。それでもこのルートを行けたという達成感は一塩でした。

<南峰〜仙人池ヒュッテ>

 南峰から池ノ平小屋へは、地理院地図にはルートは載っていないけれど、昭文社地図には載っている一般ルートです。このルートも素敵で、草原の中に一筋の道があり、なんとも快適、気持ちいいです。八峰の景色も圧巻でした。池ノ平には山スキーで来た事があったので、積雪期と無雪期の景色の違いが分かり面白いと思いました。一般ルートは歩き易いので、ロスした時間を取り戻す為に下りは走りました。

 池の平ヒュッテで初めて登山客に会いました。この辺りは一般ルートからのアプローチが長く大変なので、人の気配は少なくて静か。景色は最高、とても好印象です。

 池の平小屋と仙人池ヒュッテは走っていたのであっという間に感じました。ザックの中には、沢靴、ロープ、ピッケル、そして、仙人池の写真を撮るためだけに一眼レフをパッキングしているため、かなり重荷です。走ると足腰への負担が相当なものです。体力勝負!

 遂に、憧れの地へ。仙人池にやっと出会えました。百聞一見にしかず。この景色は行ってみないと分かりません。

深田久弥が、

「おそらく劒岳の一番見事な景観は、仙人池あたりから望んだものだろう」

と言っているように、逆さに写る八峰の構図は見事でした。構図など何にも考えずに一眼レフRAWで何枚も取りまくりました。強いて言うなら雪化粧、紅葉、朝焼け、そういう要素も欲しかったですが、それはまたの機会にして、今回はこれで満足しました。

<仙人池ヒュッテ〜長次郎谷>

 仙人池を後にし、仙人峠から剣沢まで一気に駆け降りました。剣沢の川沿いの登山道を進みます。真砂沢ロッジまでは、単調な道で小走りで進みますがとても長く感じました。

 真砂沢ロッジ付近からいよいよ雪渓が現れました。ひとまずロッジで大休止。12時間歩きっぱなしで足も疲れているので、腰を下ろしてストレッチ。目を閉じると直に寝てしまいそう。ここから雪渓を登るのでヘルメットを被って、再スタートしました。

 長次郎谷から稜線までは1000m近くを登り返さなければなりません。登りではアイゼンは必要なく雪渓は歩き易かったです。二俣の分岐地点に到達すると北方稜線や八峰が間近に感じられました。ド迫力です。

 左俣へ進み直に雪渓がリッジになっており危険な状況、最後は雪が切れ落ちていました。スリングを繋いでザックとストックだけ下ろして、空身になってピッケルを使ってずり降りました。たかが2mですが、足場が足場なのでピッケルがあってよかったです。

 ここからは雪渓も途切れ途切れで、ガレ場を登ります。足場が悪く思うようにスピードは上がりません。おまけに、上から降りて来るパーティもいて、落石にも気をつけなければならず神経も使います。それでも劒岳が着実に近づいて来るのでモチベーションは上がる一方でした。

<長次郎谷〜劒岳〜馬場島>

 とうとう稜線に這い上がりました。振り返れば後立山が美しく、さらに、北方稜線に荒々しさと八峰の迫力に圧倒されそうです。あとは本峰まで、岩稜地帯を登ります。左巻きですんなり行けそうですが、足の疲労が極限状態で、頑張りすぎると痙攣しそうです。最後はゆっくりと、これまでの行程を振り返りながら、劒岳のピークを踏みました。ついにやりました。山頂からは立山や薬師岳が一層奇麗に見えました。


 ゆっくりしている場合ではなく、日が暮れる前に下山したいので、写真を撮ったらエネルギーゼリーを補給して速攻で下山開始です。早月尾根は飛ばせば3時間、登りの足は売り切れですが、下りで使う足はまだ残っているのでダッシュで降ります。激しい岩場を降りたりしていると、早月尾根の岩場は大した事ないように思えましたが、油断は禁物、岩場は慎重に降りました。

 避難小屋では、今まで見た事の無いほど多くのテントの数でした。ここで最後のオニギリを補給して、またダッシュで降り始めました。この先、足場がぬかるんでおり、木に足を滑らせ大転倒。脛を擦りむきました。もう走りたくない。もう嫌、痛い、泣きそう。でも走れるので走ります。よろよろです。

 1400mの看板で、3時間くらいで降りられそうないいペースだと確信し、さらにスピードアップしました。なんとか明るいうちに、無事、下山完了。

 今日は18時間ほど歩きっぱなしという試練と、憧れの仙人池から劒岳を見る事ができた、まさに試練と憧れでした。

朝焼けの赤ハゲ山、白ハゲ山を望む

池の平山・南峰と劒岳

立ちはだかる壁 南峰

池ノ平小屋

仙人池ヒュッテ

真砂沢ロッジ

長次郎沢

左俣へ

源次郎尾根

北方稜線から劒岳